Replica theoryの概要とその"ヤバさ"について

作ったまま放置していたけど、考えたことを整理するために備忘録としてここに記すことにします。自分用なのでノーテーションはガバいです。

ランダム行列についてのゼミでreplica theoryを扱った。

まず簡単のためにIsingスピンのような系を考える。このハミルトニアン
 H(\sigma) = \sum_{i,j} J_{i j} \sigma_{i} \sigma_{j}のように与えられるものとする。このとき、ある \{J_{i j} \}の実現のことをサンプルあるいはインスタンスという。統計力学の例題として扱うのは \{J_{i j} \}がある一定値をとるようなものであるが、その条件を外してみるということである。そして一つのサンプルを取り出したとき、スピンの配位が決まって初めてエネルギーが確定する。このスピンの配位はボルツマン分布(あるいはカノニカル分布)に従うが、サンプルの分布は別に存在するということに注意しなければならない。

サンプルをひとつ取り出すごとに、分配関数や自由エネルギーを計算することができる。しかしサンプル自体も確率的に分布しているので、自由エネルギーの分布を考えることができるようになる。そこでサンプル全体に対する期待値を \langle \rangleで表すことにすると、自由エネルギーの期待値は
 \langle -\frac{1}{\beta} \log{Z} \rangle によって求まる。

かりにサンプルの分布が与えられたとしよう。それでも対数のかかったものの期待値を計算するのは容易ではない。そこで用いるのがreplica trickである。
まず任意の正数 Zに対して \log{Z} = \lim_{n \to 0} \frac{Z^n -1}{n} が成立することに注意して、
 
\langle log Z \rangle = \lim_{n \to 0} \frac{1}{n} \log{ \langle Z^n \rangle }
を利用する。nが正数であるときにはこの意味はわかりやすい。つまりlogの期待値を取るのではなく、"replica"をn個集めその分配関数の積をとってから期待値を計算しlogをとってnで平均化するということである。問題は n \to 0の部分である。明らかにヤバい。ここは数学的に大丈夫なのか非常に気になるが、物理の人はうまくいくことを神に祈りつつ計算を続けるらしい。

さらにヤバいのは、レプリカ対称性の破れである。このreplica trickではnを正の正数と思って計算をし、最後にnを0にする。nを正の整数と思っている段階においてはn個のレプリカについて、対称性が期待される。これは同じ系をn個コピーしただけと考えれば当然のことである。実際ランダム行列ではそれを仮定して計算をした。
しかしこの対称性が破れていることを仮定して計算をし、nを0にしてもその破れが効いてくるような例があるらしい。もうここまでくるとnに意味があるのかということさえ怪しい。このような例としてはガラスなどがあげられるらしいが、詳しいことは知らない。


数学的に厳密なところを考えるのはしんどいので数学の人にまかせることにして、計算できればそれでいいという物理の大味なところに感心しつつも、それでいいんか…という複雑な気持ちになりました。まる。